こんにちは!
Wind Band Press編集長の梅本です。
この編集長コラムでは、最近気になることや、経験上何か役立ちそうなことなんかを、ちょこちょこと書いていきます。
先日、作曲家のフランコ・チェザリーニ氏とやり取りをしていました。
彼が自身の吹奏楽作品、交響曲第2番「江戸の情景」の日本の吹奏楽コンクールでの演奏のYou Tube動画を紹介して、「42分が7分に・・・」と言っていたのですが、氏がカットを許諾したのかどうか、その時点では僕には状況がわからず、ひとまず紹介されていた動画が違法アップロードだったので「その動画は違法アップロードされたものだよ」と指摘しました。
彼の返信は悲痛なもので、「(違法かどうかという)その側面について考慮するのであれば、そもそもこの編曲が違法です。著作者も出版社も誰も許諾していない」とのことでした。
今回だけでなく以前から吹奏楽コンクールの規定時間内に収まらない曲を自由曲としてセレクトして、著作権利者や出版社/出版者の許諾を得ずにカットなどの「編曲」を行うことは「慣例」としてまかりとおってきたように思います。
以前にもジョン・マッキーがFacebookで自作のカットを嘆いていました。(それの許諾を彼が出したのかどうかは知りませんが)
今は合法も違法も含めて吹奏楽コンクールの演奏がYou Tubeにアップされ、それが海外の作曲者自身にも簡単に見つけられる時代で、さらにそれがSNSで拡散される時代です。
こういうことが続けば、やがて「日本人は許諾を得ずに勝手に編曲をする人々」とみなされ、海外楽曲の日本への販売が不許可になる可能性だってあると僕は考えています。
そのときに割を食うのは「カットせずに海外楽曲を演奏しているバンド」や「事前にきちんとカットなどの許諾を得ているバンド」の皆さんです。
演奏したい曲が、「日本人だから」という理由で演奏できない、そんな未来にはしたくないですよね?
もちろん、そういったコンクールの規定時間内に収まらない曲を「コンクール自由曲にどうですか?」とオススメするお店や人も多いと思うので、特にお店に勧められたら、勧められた側としては「その道のプロが良いと言っているんだからカットやパート変更の許諾とか取らなくていいんだよね」と思いがちです。
しかし実際は許諾を得る必要があります。オススメする人もそれを知らないだけかもしれません。カットするために許諾が必要だということを知っていて、あえて許諾について教えないままに自由曲としてオススメしているのであればちょっと悪質な気もしますが・・・。
とはいえ、カットに許諾が必要だということを知っていても、どこに問い合わせればいいかわからない、という場合には「まあ、バレないだろうし、いいか・・・」となってしまうことも多いかもしれません。
そこで、現時点で僕が仕事上知っている範囲で、カットなど「元の形を変える」場合のお問い合わせ先などをまとめてみようと思います。
■基本的には出版社/出版者に問い合わせを:PDや編曲作品にも注意しよう吹奏楽の楽譜の場合、著作権が消滅している(パブリック・ドメイン=P.D.)曲はあまりないと思うので、編曲(カットを含む)を行いたい時は、楽譜を買ったらその楽譜の出版社に問い合わせるのが基本的なステップです。日本の出版社は検索すればすぐにウェブサイトが出てくるでしょうし、楽譜に連絡先が書いてあるかもしれませんのでリストは割愛します。直接ウェブサイトなどからお問い合わせください。また、原曲が吹奏楽でない作品を吹奏楽に編曲する、という場合にはJASRACが提供している「J-WID」で調べるのが便利です。JASRACは海外の音楽著作権管理団体とも提携しています。吹奏楽以外、特にポップスやジャズなどの海外の作品には日本での「サブパブリッシャー」と呼ばれる窓口があることがほとんどです。まずは「J-WID」にアクセス。一番下の「検索に進む」をクリック。すると作品タイトルなどで検索できますので、検索をします。海外の作品の場合は原題が良いでしょう。編曲された作品も独自性が認められれば編曲著作物として登録されているので、検索結果に同じ曲名がたくさん出てくる場合もあります。原曲から編曲する場合は検索結果から「原曲」を探しましょう。また、古いクラシック作品のように、著作権が消滅している(パブリック・ドメイン=P.D.)楽曲であっても、編曲された作品に独自性が認められれば編曲著作物として編曲者に著作権が発生しますので、注意が必要です。年のために「J-WID」でタイトルと編曲者の組み合わせで検索して、著作権の状況について調べましょう。いずれの場合も、検索をして、検索結果から曲を選ぶと、「演奏」「録音」「出版」など利用分野ごとの管理状況が表示されます。例えば「J-WID」で、Golden Hearts Publicationsから出版している「タキオのソーラン節」を検索して、「出版」をクリックしてみます。そうすると、作曲は「北海道民謡」となっておりPDなのですが、作詞と編曲は伊藤多喜雄さんになっていて、出版者(社ではないのがポイント)が「日本テレビ音楽 株式会社」となっています。ですのでこの伊藤多喜雄さんがアレンジした北海道民謡のソーラン節、つまり「タキオのソーラン節」、またの名を「南中ソーラン」については、伊藤多喜雄さんの独自性のある編曲著作物として認められていて、伊藤多喜雄さんに著作権があることがわかります。そしてこの作品の編曲をしたい場合には「日本テレビ音楽 株式会社」に問い合わせをしなければいけないことがわかってきます。海外作品も見てみましょう。ここでは例としてジャクソン5の「I Want you back(帰ってほしいの)」を調べてみます。ジャクソン5のI Want you backは表向きは「ザ・コーポレーション」の作詞作曲になっていますがこれはチーム名のようなもので、メンバーはベリー・ゴーディ・ジュニア、ディーク・リチャーズ、フレディー・ペレン、フォンス・マイゼルです。という情報を先に知っておかないとJ-WIDで検索しても探すのが難しいのですが、ひとまずありました。作品コードは「0I0-0921-3」です。これも「出版」を見てみます。すると、下記のように情報が出てきます。1 GORDY JR BERRY 作曲作詞2 MIZELL ALPHONSO JAMES 作曲作詞3 PERREN FREDERICK J 作曲作詞4 RICHARDS DEKE 作曲作詞5 JOBETE MUSIC CO INC 出版者ソニー・ミュージックパブリッシング フジパシフィック事業部 サブ出版6 増永 直子 訳詞この情報から、日本のサブパブリッシャーが「ソニー・ミュージックパブリッシング フジパシフィック事業部」だということがわかります。ですので、この曲を吹奏楽に編曲したい場合には、「ソニー・ミュージックパブリッシング フジパシフィック事業部」に問い合わせることになります。ちなみにJASRACには「外国作品を利用する場合の主な音楽出版者連絡先」というページがあるので、これも活用しましょう。このように調べていくわけですが、例えば吹奏楽に編曲された作品にさらにカットなどの編曲を加えたい場合には、必ず事前にJ-WIDで検索をして、管理状況を調べましょう。それでも詳細が不明な場合は、その編曲作品の楽譜を出版している出版社に問い合わせてみてください。なお、JASRACは著作権のうち財産権を権利者から信託されているだけですので、JASRACから編曲許諾は出せません。
■海外出版社への問い合わせ先リスト日本では、吹奏楽系の海外出版社への編曲許諾の申請代行をしている出版社や小売店、または日本法人などもあります。出版社や窓口ごとにリンクを張っていきますね。【日本の窓口】De Haske JAPANオランダのHal Leonard MGB Group の日本向けの子会社です。対応している出版社:Hal Leonard MGB BVHal Leonard EuropeAnglo Music PressCurnow MusicCurnow Music Press Inc.De Haske PublicationsEdtition DehadeFentone MusicMitropa MusicScherzando Music PublishingGobelin Music PublicationAmstel MusicBeriato MusicIbel Musica※アメリカのHal Leonard Corporationは含まれません。Stormworks有限会社ミュージックストア・ジェイ・ピーさんが窓口になっています。有限会社ミュージックストア・ジェイ・ピーさんは、その他の出版社の編曲許諾の申請代行もされているようです。→詳細はこちらロケットミュージック株式会社さんでも一部海外出版社の編曲許諾の申請代行をしています。→詳細はこちら対応している出版社:Alfred PublishingC.L. Barnhouse Co.Hal Leonald USANeil A Kjos Music CompanySouthern Musicブレーン株式会社さんはいくつかの海外出版社のサブパブリッシャーとなっています。→詳細はこちら対応している出版社:オーディカ・ミュージックMusica PropriaGorilla Salad ProductionsOsti Musicホコヤマ・ミュージックOK Feel Good MusicTierolff MuziekcentraleC. Alan Publications【海外の出版社のリスト】以下は海外出版社に直接問い合わせる場合のウェブサイトへのリンクです。英語がわからなくてもDeepL翻訳(ある程度のテキスト量までは無料)などを使えばだいたい通じる英語に翻訳してくれますので頑張ってください。自動翻訳後に若干の修正が必要な場合がありますが、中学英語くらいのレベルがあれば大丈夫かと思います。主に主語に注意しておきましょう。DeepL翻訳はこちら海外の出版社は、英語圏の出版社でなくても、例えばフランスの会社でも、テキストであれば英語で通じます。お互いに母国語が英語でなくても、不明な点があれば「それはこういう認識でよろしいでしょうか」というような感じで何度かやり取りしていけば良いだけです。自動翻訳で知らない英単語が出てきたときには無理にそれを使わずに、平易な単語に修正して問い合わせをすると良いでしょう。▼海外出版社のウェブサイト(なるべく編曲許諾やお問い合わせページにリンクしています、順不同で申し訳ありませんが)Alfred PublishingBill Holab MusicBRASS WIND PUBLICATIONSBronsheim MusicCarl FischerTheodore Presser CompanyC.L. Barnhouse Co.(Daehn Publicationsもこちらで大丈夫かと思います) Editions Marc Reift(ページの下の方にメールアドレスが公開されています)Gerard Billaudot EditeurGramercy MusicExcelcia MusicWingert-Jones PublicationsRBC PublicationsHAFABRA MUSIC(ページの下の方にメールアドレスが公開されています)Kendor MusicKLARTHEManhattan Beach MusicMolenaar EditionMurphy Music PressObrasso-Verlag AG(ページの下の方にメールアドレスが公開されています)Scomegna Edizioni MusicaliStar Music Publishing(ページの下の方にメールアドレスが公開されています)Studio Music(G&M Brand / R. Smith & Company / Tradewindsもこちらで大丈夫かと思います)TRN MusicBoosey & HawkesHal Leonald (USA)Neil A Kjos Music CompanySouthern MusicMusicaesFaber MusicG. Schirmer / Associated Music Publishers / Novello and Co / Alphonse LeducDurandEdition Franco CesariniHouben EditionsRWS Music CompanyClaude T. Smith Publications上記のリストは完全なものではないので、記載のない出版社の作品については、楽譜を購入したストアに問い合わせをしてみてください。
以上、「カットを含む編曲許諾についてはどこに問い合わせればいいの?基本的な事項と海外出版社の連絡先リスト」でした。今はまだ作曲家に「こいつら無許諾でカットしてんな」とバレてもSNSで愚痴られるくらいで済んでいますが、民事請求や演奏の差し止めをされたりしても文句を言えない状況です。何より「違法であることが当たり前」という文化を未来に残すことは日本の吹奏楽にとってデメリットしかないと思いますので、作曲家、編曲家、権利者に敬意を払い、カットする場合には許諾が必要かどうか出版社/出版者に問い合わせるようにしていただきたいと思います。その他著作権関係のコンテンツも合わせてご一読ください。【インタビュー】音楽著作権について学ぼう~特に吹奏楽部/団に関係が深いと思われる点についてJASRACさんに聞いてみました【許諾が必要な場合も】演奏会の動画配信やアップロードに必要な著作権の手続きなどについてJASRACに確認してみましたスコアの拡大コピーは違法?「でも出版社がA4サイズしか販売していないし、吹奏楽だとA4で指揮するのは難しい」そこでJASRACさんに確認してみました
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